粕本集呆の馬事放言

「粕本集呆の辛口一献」に替わるカスPこと粕本集呆の新ブログ。主に競馬関連中心ですが、ニコマス活動再開も企図しております。

<CDアルバム>勝手にしやがれ「パンドーラー」

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ちょっと前になるが、新潟県や神奈川県で福島から避難してきた子供たちが、学校でいじめに遭っているという報道があり、やがてそれが当該中学校だけに留まっていないことが明るみになってきた。

当然いじめは許されていいものではなく、担任教師までが便乗したのは言語道断だが、ネットで一連の報道の下に表示されるSNSのコメントでは、中学生ばかりかその親まで犯罪者のように糾弾するようなものが目立った。しかし子供ほど残酷な生き物はいないし、小知恵が付いた中学生は殊更タチが悪い。家庭が貧しい、性格が内向的、容姿が見栄えしない。それだけでいじめの対象にする。放射能が漂っている町から避難してきた子供など、格好の餌食である。正直私も中学生時代、積極的にいじめに加担せずとも、その取り巻きで楽しんでいた時期はあり、今思い出すに、死ぬまで引き摺っていかねばならない、拭い去れない人生の汚点である。SNSで正義感ぶって激しい断罪のコメントを発信した連中は、中学時代はどんな同級生にも分け隔てなく接した聖人君子だったのか?いじめる側はすぐ忘れて、いじめられた側はずっと心に残っているというのは世の定説だが。ただ、私の時代では不良のカツアゲを別にすれば、金品をせしめるというのはさすがになかった。

 

阪神大震災から6年、人々が口を揃えて謳っていた「絆」が色褪せ、メッキが剥がれたあとのように陰湿ないじめが表面化し始めた頃、私はこのアルバムに出会った。

といっても、「勝手にしやがれ」自体は以前から聴いていた。おそらく沢田研二のヒットナンバーではなく、1959年のフランスの映画の題名から取ったのではと思われるこのパンク的なジャズバンドを知ったのは、アニメ「ギャラリーフェイク」のオープニングテーマ「ラグタイム」。軽快なジャズと武藤昭平の独特なヴォーカル、そしてどこか退廃的な雰囲気に惹かれ、アルバムを買って聴くようになった。

このジャズバンドの曲の歌詞、シュールで退廃的ではあるのだが、どこかそれに安住していない雰囲気がある。繰り返しの悪夢から抜け出したい、自堕落な生活をやめたい…といった気持ちはあるのだが、頑張って前を向いて歩こう!といったポジティブさもない。「ラグタイム」が収録されたアルバム「シュールブルー」で、「マリア」とか「シスター」とか「神様」とかいった単語があちこち出てきて「救われたいけど自分はだらしないから誰か手を引っ張って」的な弱さがある。もがきと諦めが同居してせめぎ合っているような不安定さで、ときには「フィラメント」(アルバム「ブラック・マジック・ブードゥー・カフェ」)のような刹那を生きる人間への優しい眼差し、「35°5」のようなマゾっぽいところや「ブコウスキーの夢」のようなだらしなさ(ともにアルバム「フィンセント・ブルー」)に自分の現状を投影して、聴いていて妙に心地よかったりしたのである。

このバンドに限らず、一時的に音楽全般から遠ざかっていた時期があったのだが、人間らしい経済環境と引き換えに、労働に時間と体力の大半を費やさなければならなくなったとき、再度音楽を聴くようになった。働くことだけで時が過ぎていき、ブログを更新する時間が減ると、少なくなった時間で出来得る限り、現実世界から距離を取ることを求め始めた。通勤の車の中やブログの更新作業中は常に音楽を流すようになった。ここ最近、かつての同級生たちの、私よりは明らかに豊かな暮らしと引き換えに、擦り減って変わり果てた姿を目の当たりにしたショックもある。彼らの人生は紛うことなく正しく、自分の人生は明らかに失敗である。でも、彼らと同じ環境は望みえない反面、たとえ手が届いたとしても、それを維持するためだけに皺と白髪を増やしていくのには怖さに近いものをおぼえた。音楽だけでなく、彼らがもう見向きしなくなったオタク的サブカルチャーに最近お金を費やすようになったのもそのせいかもしれない—無論、公課公租や「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するための蓄えを除いた金銭的余裕の範囲内でだが。

そんな中、以前買った「勝手にしやがれ」の幾枚ものアルバムを再度聴き直した。先述したシュールで退廃的だが、破滅的でもなくどこか心地よい彼らの世界は、今の私にフィットし、何より武藤たちメンバーのデビューから半ば一貫した、黒い帽子にスーツ、サングラスというファッションが、現実世界と距離を取っている(現実離れではない)ようで格好良い。そして新しいアルバムを買おうと思って手にしたのが現時点での最新作(今春に新作アルバムをリリースする予定)の「パンドーラー」である。

最初のナンバー「パンドーラーの匣」を聴いたとき、「あれ?」と思った。これって反原発ソングではないのか?と。ジャケットを見る。武藤が煙草に火をつけているのは、燃えているレコード盤のように見えるが、よく見ると原発のマークである。これまでメッセージ的なナンバーがなかったわけではない。しかしここまであからさまに社会的問題を俎上に乗せ、「立ち上がれ」と行動を促すような曲はなかった。ちょっと戸惑い、次の「Dr.ベクレキュリー」。

反戦を訴えた歌はこれまで幾多あり、反原発の歌も私が知らないだけで幾つもあるのだろう。しかしこれほど聴く者を鬱にさせる反原発ソングもない。ある博士の助手であるベクレキュリー氏も、博士が発見した最初素晴らしいと思われていた物質も、架空のものであり、原子力とは一言もいっていない。押しつけがましくない分、聴く者に最初から抵抗感を持たせず、それにつけ込むかのようにジワジワくる曲なのだ。最初フンフンと聞いていて、次第にオイちょっと待てよ、となり、そして最後、武藤の声を借りたベクレキュリー氏の悲痛な嗚咽がグサリとくる。3曲目の「ネヴァー・トゥー・レイト」は一転してポジティブなナンバーだが、最初はロクに耳に入らなかった。

この2曲を聴いて思い出した人名がある。鈴木義司。「お笑いマンガ道場」での富永一朗氏との掛け合いで有名な漫画家である。鈴木氏は原発を素晴らしい夢のエネルギー、「パンドーラーの匣」のフレーズにある「アストロボーイ 原子の力」を信じて疑わず、自ら原子力発電の広告塔に立ち、他の漫画家たちにも原子力発電をアピールすることを積極的に勧めていたという。勿論鈴木氏には悪意など欠片もなく、鈴木氏にとっては幸運にも…といっていいのか、2004年、東日本大震災の前に他界した。

アルバム全体が東日本大震災をテーマにしているのだが、菅野よう子の「花は咲く」のような、被災者を励ますものではない。街を去って、新天地に半ば膨らみ過ぎた希望を抱く人たち「タクシー・ソング」、「毒の風」が吹き、大半の人が去ってもまだ街に残る人「ゴースト・タウン」。東日本大震災によって人生が変わった人々の、人それぞれの様相が描かれている。後掲するインタビュー記事にその理由がわかったのだが、音質的にも過去に聴いたものとは微妙に異質で、私が期待していたシュールさも、騒がしくもデカダンな世界も、そのアルバムになかった。

このアルバム、リリースされたのが2014年9月10日。震災から3年半経過している。こういったメッセージ性が強いアルバムは普通、間を置かず発表するのだが、3年半—震災が過去のものとなりつつある頃、発表してきたのだ。これは3.11—震災を忘れるな、ではなく、3.11の渦中にあった人たちの現在があることを思い出してくれ、といったメッセージに聞こえる。3.11から間もなくは、「絆」という言葉が氾濫し、ともすればそれは押しつけがましく、窮屈さすら感じた。しかしこのアルバムの「アイ・ラブ・ユー・アゲイン」は何かしよう、しなくてはならない、ではなく、3年半経った今でも何かできるのでは?という呼びかけであったりする。そしてそれは聴いている者ばかりではなく、「わたしは今 世界を今 救えるかもしれない」と自身にも向けられている。

勝手にしやがれ」のアルバムは車の中で繰り返し聴いている。全然「頑張れソング」ではないが、働き、疲れ、そして寝る…の中に埋没しかけている自分を、何故か夢見が悪くなりそうなシュールな歌詞を乗せた武藤のボーカルとファンキーなブラスアンサンブルがすくい上げているのだ。「パンドーラ―」は全然そんなアルバムでなく、「ラグタイム」や「ロミオ」、「バーフライズ・ストンプ」のように何度も繰り返し再生したくなるようなナンバーもない。商業的には微妙なところがあるアルバムである。それでも伝えたいことを音に乗せて飛ばす、というパンクジャズの魂を見せてもらった思いがした。

 かつては日本にも、主張を音に乗せて発信していた時代があった。しかし学生運動が最悪の形で崩壊し、歌で何かを主張することが格好悪いとさえ思われるようになった。それどころか、権力に異を唱えること自体が胡散臭いという、統治者にとっては実に有難い日本独自の風土が出来上がり、極めつけはロックフェスに政治を持ち込むなという批判である。そして長年、ミュージシャンたちは社会問題を避けるようになり、恋愛や抽象的な夢、身近な幸福ばかりを歌うようになった。商業主義と批判されがちな80~90年代のポップスは決して嫌いではない。むしろ私のアルバムのライブラリの半分以上を占めている。ただ、商業音楽が行き詰ったのがこれ幸い、そろそろ日本のミュージシャンも、音で声高に何かを訴えてもいい頃ではないかと思う。

 

最後に、岡本貴之氏の「パンドーラ―」に関する武藤氏へのインタビュー記事のリンクをここに貼らせて頂きます。

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