粕本集呆の馬事放言

「粕本集呆の辛口一献」に替わるカスPこと粕本集呆の新ブログ。主に競馬関連中心ですが、ニコマス活動再開も企図しております。

中央のダービージョッキーと佐賀のダービージョッキー

日曜日の競馬の結果

中央東京「東京優駿(日本ダービー)」カスP…ハズレ/逆神の権兵衛…ハズレ

1着 17番ワグネリアン(5番人気)

2着 12番エポカドーロ(4番人気)カス▲ 

3着 7番コズミックフォース(16番人気)

 

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私が愛読している漫画に、ハロルド作石の「7人のシェイクスピア」があります。この中で、当時イギリスでは禁教だったカトリックを信仰しているシェイクスピアを支援する、ストレンジ卿・ファーディナンド・スタンリーという貴族が登場します。実はこの人物、後の第5代ダービー伯。「7人のシェイクスピア」でシェイクスピアが脚本を提供している「ストレンジ卿一座」も、ファーディナンドダービー伯に襲爵以降「ダービー伯一座」に改名されるのですが、その後すぐファーディナンドが急死。弟の第6代は兄ほど文化事業に熱心ではなく、「ダービー伯一座」はなくなります。ちなみにこの頃既に競馬の原型のようなものが存在し(まだ庶民の賭け事の対象ではなかった)、エリザベス1世も好んでいたそうですが―奇縁なのか、今のエリザベス女王も大の競馬好き―、ファーディナンドは競馬には関心はなかったよう。

ダービー伯の称号は唯一無二のものではなく、スタンリー家以外にフェラーズ家、ランカスター家(後のイギリス王家)にもありましたが、現存し、競馬の「ダービー」と関係あるのはスタンリー家。そして競馬の「ダービー」の名の由来となるのが第12代・エドワード・スミス・スタンリー。中央競馬のGⅢ・ダービー卿チャレンジトロフィーは、第18代エドワード・ジョン・スタンリー伯にちなんでいます。そして19代目エドワード・リチャード・ウィリアム・スタンリー伯は所有馬ウィジャボードで2005年ジャパンカップに参戦(5着)。翌年のジャパンカップも同馬でディープインパクトに挑みました(3着)。

 

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(ダービー当日の新聞の全面広告《朝日新聞朝刊》)

そんな歴史ある、日本では第85回目のダービー。勝ったのはワグネリアン

皐月賞とはうってかわって上位5頭中4頭がノーザンファームという、吉田帝国の逆襲となったわけですが、それでも私から見て一番輝いていたのは、勝ったワグネリアンよりも、2着に敗れたエポカドーロでした。予想で「皐月賞勝ちに敬意を表して」▲を打ちましたが、正直半信半疑、もうちょっと枠が外めだったら切っていたでしょう。レースでは序盤から果敢に先頭に立つ。これには驚きました。2000メートルで逃げ切り勝ちもあったものの、ローカル小倉の500万条件戦。皐月賞は道中4番手。皐月賞馬の看板を背負いながら、逃げ切りが困難な東京芝2400メートルで、敢えてハナに立つとはなかなかできる芸当ではない。これは、ワグネリアンの福永にもいえることなのですが、皐月賞馬でありながら4番人気という微妙な評価であったことも戸崎の背中を押した。とはいえその走りっぷりはよくある人気薄馬の「イチかバチか」ではなく、堂々としたもの。逃げているというより17頭を従えているようにさえ映った。1000メートル通過タイムを知る前に勝ち負けはともかく、少なくとも馬群に沈むことはないと思いました。

ワグネリアンは、外枠であったことで消しましたが、福永が果敢に先行、好位にとりついた。これが勝利に結びつきました。思い出すのは2015年のリアルスティール。本命を打っていたのですが。あのときの消極的騎乗に愕然。2013年エピファネイア(2着)の好騎乗を評価して買ったのですが、コイツはもう一生ダービーを獲れないと思いました。今回それを覆してみせたのですが、まずその前の皐月賞での、1番人気を背負いながらの消極的騎乗による失敗があった。要は好騎乗の前提として、一度失敗して痛い目に遭っていないといけない。若手やマイナー騎手なら、その一度の失敗で容赦なく降ろされている。それが再度チャンスを与えられているところが恵まれているのであり、一部で「コネ永」と陰口叩かれている所以。ただ、誰もが平等に横一線などということは有り得ず、コネだろうが何だろうが恵まれた環境があるなら、そのアドバンテージは最大限活用すべき。ただ福永はそれに見合う結果が出せず、陰口言う人たちを黙らせることができなかったのです。そして、皐月賞の裏切りと外枠によって評価が5番人気に下落。それが逆に福永をプレッシャーから解放し、今回の好騎乗へと繋がりました。では、人気を背負って好枠を引いたとき、積極的な騎乗ができるか?ダービージョッキーの称号を得たところで、テレビゲームのアイテムと違ってそれで能力が上がるわけではない。川田や浜中もそうなのですが、勝たないといけない環境で当たり前に勝てない限り、1.5流から1流にはなれない。武豊アンカツと福永の違いはそこであり、福永がダービージョッキーの称号に相応しくなるかどうかはこれからなのです。これは今年の「オグリキャップ記念」当日のトークショーアンカツが語っていたのですが、キングカメハメハは、絶対にダービーは獲れると確信していた。ただ問題はその前のNHKマイルC。勝てるかどうか確信がなく、NHKマイルCで結果を出せなければダービーでの騎乗が確保できないと、その点ではプレッシャーがあったそうです。そしてNHKマイルCを勝ち、続くダービーも制した。アンカツは「ただ自分は跨っていただけ」と当時コメントしていましたが、あながち謙遜ではなかった。ただ、単勝2.6倍、1番人気のダービーで、跨っていただけで勝てるようになってこそ、そしてキタサンブラックのラストラン、圧倒的人気のプレッシャーを「自分だけに与えられた特権」と歓迎した武豊くらいになって、ダービージョッキーという名の服が体にフィットする。まだ福永はダービージョッキーという服に「着られている」状況。甘いマスクで「ユーイチ」と持て囃されていても、もう若くない。真のダービージョッキーになるのに残された時間は実は多くなく、これから一鞍一鞍、真のダービージョッキーへの階段を一段一段昇るつもりで臨まなければいけない。

ところで私の誤算は、後方勢がまったく伸びなかったこと。上位3頭の上がりは決して速くなかったのですが、後続が捕まえられなかった。本命馬ゴーフォザサミットは道中8番手で7着。グレイルもまったく見せ場なし。後方から唯一伸びてきたのが13番人気のエタリオウで4着(上がり2番目の速さ)。目黒記念でも前に行った馬がそのまま上位に残りましたが、ダービーと違うのは勝ち馬が上がり34.1で4番目。といっても最速が34.0で3頭いた。3着馬が上がり34.2でこれも3頭。逃げて失速した7着馬を除けば11着までは34.5までで収まっている。つまりはほぼ横一線。ダービーで速い上がりを出した馬は道中最後方で死んだふりしていた馬たちですが、長い直線でも最後方からでは馬券圏内には届かなかった。中団待機の馬は揃って末脚を殺がれている。昨年と違ってスローでありながら全体時計は決して遅くない。となると後方勢の不振は馬場等の外的要因ではなく、個々の馬それぞれに問題があったといえる。ブラストワンピースはスタートで後手を踏んでしまったのがケチのつけはじめか、所々でロスをする不細工な競馬。もしかしたら毎日杯以来というローテーションも裏目に出たかもしれない。キタノコマンドールはコズミを残したままの出走で、レース後屈腱炎発覚という恐れていた最悪の事態に。様々な要因はあれど、力を出し切れずに不本意な競馬で終わった馬が多かった。

 


佐賀競馬 第60回九州ダービー栄城賞 優勝騎手 田中 純 騎手インタビュー(2018.5.27)

 中央で福永がダービージョッキーになったのと同じ日、佐賀の「九州ダービー栄城賞」で田中純ダービージョッキーに。とはいえ福永と違って初めてではなく、2014年に、高知の馬でこのレースを制しています。今回は地元佐賀の馬。そういう点で、今回ようやく真の地元のダービージョッキーになれたといえる。

荒尾競馬廃止後、一度は牧野孝光元騎手らとともに追分ファームに就職しましたが、わずか一か月半で辞め、その後佐賀競馬の厩務員に転身、その後ジョッキーとして復活しました。個人的には実力があり、何より若いので、騎手を辞めてしまうのは勿体ないと思っていただけに、早い復帰については別段驚きを感じませんでした。

私は佐賀競馬は嫌いではないのですが、交流重賞以外で馬券を買うことはありません。思い入れが深かった荒尾競馬の隣にありながら、特に思い入れがないのです。荒尾競馬廃止が決まった後に知ったのですが、実は佐賀競馬荒尾競馬は、ファンも関係者もどうもあまり仲が良くなかった。とはいえリーマンショック後の不況下、さすがに両競馬場は生き残りのため手を携えましたが時すでに遅し。荒尾の方は廃止の憂き目に遭いました。もしもっと前から手を携えることができたなら荒尾の廃止が回避できた…とまでは言いませんが、荒尾廃止後、スライドで笠松と同じくらい佐賀を応援できていたかもしれません。田中純は弟の直人が佐賀でデビューし、活躍していることもあってか佐賀競馬に対する抵抗感が薄かったというのも幸いし、すぐに同地に溶け込むことができました。元荒尾競馬ファンとしておめでとう、と言いたい。できれば「ジャパンダートダービー」にと言いたいところですが、難しいか。

冒頭で述べたように、ダービー伯は長い歴史がある。スタンリー家の歴代当主の中でも、武功挙げて英国中に名を轟かせた勇将もいれば、戦いに敗れ処刑された者もいる。そんな波乱に満ちた一族の称号が日本全国に散らばっているというのも不思議な話。佐賀を皮切りに各地で「ダービー」が行われ、最後は東京で「ジャパンダートダービー」が行われる。個人的には今年の中央勢はそれほど層が厚くないと思っています。抜けた存在と思われたテーオーエナジーは今回芝の「ダービー」に出走し(殿負け)、果たして順調に土の「ダービー」に進めるかどうかわからない。昨年の「ジャパンダートダービー」は「東海ダービー」を含む各地の「ダービー」馬が臆病風にふかれた中、勝ったのは大井の「東京ダービー」勝ち馬・ヒガシウィルウィンでした。今年はなるべく多くの「ダービー」馬が大井で見られるよう期待したいところです。